つつのんの気まぐれ日記

アラカン女子の複雑怪奇な頭の中を書いていきます。

大切な友人にお金を貸してと言われたら、貸す?貸さない?

同僚のHさんが友人にお金を貸してくれと言われ、どうしよう・・・・と、言ってきた。昼休みのことである。

 

Hさんは51歳で独身だ。

私と同じ派遣で、週4日テレオペをしている。彼女の場合、コンビニのバイトと掛け持ちのWワークである。そのWワークのせいで、シフトがかみ合わず時々週3日に勤務を減らされるもんだから、「さすがに週3日勤務になると生活厳しいんですよね」と、常々嘆いていた。

こんな状態で、貸せないだろ?なぜ悩む?

 

断ればいいじゃないの。

と、思うが、いわゆる彼女は「いい人」である。何をもっていい人というかは意見が分かれると思うが、ここで言ういい人とは、相手の立場を優先する人である。

そのお金を借りたがっている友人とは、前の職場で、つらい環境の中お互いに励ましあって頑張ってきた仲だそうだ。とはいうものの、この一年はぱったりと連絡が途絶えていたという。だいたい、疎遠になってる関係の中で、突然連絡がきたりすると大概ロクなことがない。それでもHさんは本気でその友人のことを心配しているようだった。さらに詳しく聞いていくと、借金をするに至る理由が明らかになった。かいつまんで言うと・・・・

 

その友人には20歳の息子がいる。まだ学生だ。その息子がが事故を起こした。信号無視して交差する道沿いから出てきた車にぶつけて横転させ、全治2週間のけがを負わせたらしい。治療費や慰謝料は保険から出たそうなのだが、ある日検察から出頭命令が出た。そこで告げられたのが、50万の罰金だったらしい。それから数週間ほどして、裁判所から起訴状と略式命令書と振込用紙が送られてきたそうだ。罪名は、過失運転致傷罪。略式命令書には罰金を完納できないときは、1日5000円換算で労役場に留置すると書かれていたらしい。

 

余りの罰金の大きさに、ウソだろう?と疑念がわいた。信号無視は確かに恐ろしい行為ではあるが(交差点の先のラーメン屋に入ろうとして、駐車場はどこにしようかと気を取られていたらしい)・・・・大事故につながった可能性は否定できないが、幸い?と言っては何だが、相手は全治2週間だろ?

軽く考えた私は、今時の交通法に無知だった。 

「50万なんて罰金にあるの?」

首をかしげてる私に、Hさんはそっと封筒を渡した。中を見ると、なんと起訴状と略式命令のコピーだ。確かに50万と書いてある。払わなけば留置するとも書いてある。〇〇簡易裁判所の裁判官の名前が最後に堂々と書かれていた。本物だ。

 

その友人はこんなのコピーして渡したのか?確かにこんなの偽造してまで人から金を借りようとするやつはいないだろう。

 

そもそも、こんな証拠を見せなきゃいけないほど二人の友人関係は希薄なのか?

 

友人はどういうつもりで、Hさんにコピーまで渡したのか?

あなたがお金を貸してくれないと、私の息子牢屋に入れられてしまうのよ!とでも脅しているつもりか?いや、そんなつもりはないだろう。その友人が,Hさんに借りようとしている借金は10万だ。40万は何とか他をあたってかき集めたらしいのだから。

 

「貯金はあるんですよね・・・・」Hさんは言った。

なんだ、あるのかよ。

Hさんは貸す方に天秤が傾いていうようだった。

じゃあ、貸せば?

とは言えなかった。私にはどうしても言えないだけの過去があったのだ。

 

30年も前のことだ。私は30万のお金を貸したことがある。貸した相手は、友人のKさん。私が最初にKさんと会ったのは、私の職場の近くにあるおしゃれな喫茶店だった。私はそこの常連客で、Kさんはそこで働いていた。なんか、見たことのある顔だなとは思っていた。そのうちKさんが話しかけてきた。「高校どこ行った?」それが最初の会話だった。偶然同じ出身校で、Kさんは私より、2つ先輩だった。それがきっかけで私と彼女は急激に距離を縮めていった。そこに同じ常連客のYちゃんが加わり、さらにA君が加わり、S君が加わった。私たちは、よく5人で遊びに行った。海に行ったり、カラオケに行ったり、飲みに行ったり、旅行にも行った。何より、仕事の帰りに喫茶店でコーヒーを飲みながら時間も忘れて話すのが楽しかった。だけどね、楽しい時間は、いつか終わりが来るんだね。A君が転勤になって、S君は親の跡を継いで、時間が自由に取れなくなって、Kさんも離婚歴のある一回り年上の自営業の男性と結婚した。まだその時はYちゃんとは喫茶店で時々会っていたし、結婚したKさんの家にもYちゃんと押しかけては手料理をごちそうになった。でもね、そのうち、Kさんのご主人の仕事がうまくいかなくなってたんだね、自然と連絡が取れなくなった。3年ぐらいたった頃かな-Kさんから突然電話があった。ずーっと会ってなくて、ホント突然だった。

 

「言いにくいんだけど・・・…お金貸してくれないかな…すぐには返せないけど、毎月少しずつ絶対必ず返すから」

 

もちろん迷った。

 

でも、家賃と二人の子供の保育園の支払いが数か月分たまってて、にっちもさっちもいかなくなってるらしく、私から借りれないとサラ金に借りるしかないと言う。

今は昔に比べるとサラ金のイメージはずいぶんとましになったが、当時は、金利だけで30パーセント以上は取られていたと思う(現在は法律で上限20パーセント)厳しい取り立てもさることながら、サラ金地獄などと言われ、一度サラ金に手を出すと、転落の道が待っていたのだ。しかも、今のようにカードで簡単にキャッシングなんてものも当然ない。

さすがにサラ金に行けとは言えなかった。しかも親の反対を押し切って結婚したため、実家とは絶縁状態で、Kさんには頼る人がいなかった。と、その時はそう思っていた。

当時の私は、お金に余裕があった。親と同居していたし、今のようにリストラもなく仕事は安定しておりそれなりの収入を得ていた。30万貸したところで何も困ることはなかった。今なら大いに困るが。私は、結局銀行からお金を下ろし彼女に30万を渡した。

 

だが、そのお金はその後1円たりとも帰ってくることはなかった。しばらくは、「もうちょっと待って」と詫びの電話が数回はあったが、いつの間にか、前の住まいから引っ越していた。居場所を探す当てなどない・・・・Yちゃんなら、なんか知ってるかもしれない!と思ったが、すでにその頃、Yちゃんとは疎遠になっていた。それにKさんを探して見つけたとしても、何も言わずいなくなった時点で返してくれるとは思えなかった。こうして私は、お金も友達も失った。

 

その後、私も結婚し地元を離れた。ずいぶん経った頃だ。実家に帰省していた時、Yちゃんと地元の夏祭りでバッタリ会った。その時聞いたんだ、Kさんのこと。そしたら彼女、結婚を反対された親と仲直りをし、ご主人と一緒に実家で同居していると言った。

 

「ね、あの時さーYちゃんもお金貸した?」

Yちゃんは、「あの時」と聞いただけですぐにピーンときたようだった。

 

「まさか!10万もお金貸せるわけないじゃん!そんなお金あたしが持ってたと思う?むり、むり!それに、あのころさ~ご主人が仕事の失敗で数百万の借金があったらしいから、お金貸したところで、どうにもならなかったと思うよ」

 

10万?10万なの?

 

「まさか・・・・・・・貸した?」と上目遣いに私を見るYちゃん。

 

苦笑いする私に、Yちゃんは言った。

「うちの旦那がよく言うんだけどさ、貸すことが親切て思ってるけど、貸さない親切ってのもあるらしい、時と場合によるんだろうけど。たいがいあたしが旦那に借金申し込むときに言われんだけど、後で、借りなくてよかったって思うことは多々ある、あたし、変な浪費癖あるからね」

 

殴られた気分だったね。

 

Kさんは思ってるのだろうか、私にお金を借りなきゃよかったって。私がお金を貸さなきゃよかったって思ってるように。いや、違うだろう、金返せ!

 

Yちゃんには10万借りようとして、私には30万。Yちゃんは借金断って、私は断り切れなかった。YちゃんはKさんと友達のままで、私はKさんにとって会いたくない相手だ。

 

私があの時、選択を誤ったことは明らかだ。

 

そんな経験談を、私はHさんに語った。

  

「えー返さないなんてことあるんですか?」

 

「まっ、そうゆうこともあるってことよ、でもその友人は返すと思うよ」と、私は根拠なく言った。

 

「そうですよね、ちゃんと返してくれますよね!」

 

おめぇ、私が借金踏み倒された話ちゃんと聞いとったんかい!

 

「いい人」はこれだから困る。

 

別に、Hさんがお金を貸して戻ってくればそれはそれでいいのかもしれない。それでも私は言った。

 

「今時、友達に借金する?かードで借りれるんじゃないの?」

 

「やっぱり貸さない方がいいですかね?」

 

そんなこといってんじゃねーよ。1年も音沙汰なかったあーたに借りる前に他はちゃんと当たったのか?ってことだよ。30年前の私に、言ってやりたいものだ。

 

とは言わなかったが、「もうちょっと、貸す前にじっくり考えたら?」と、言って、話を切り上げた。

 

後日談・・・・・・

Hさんは結局お金を貸さなかったらしい。いったん差し戻したのだ。もう一度、家族と話し合って、その時どうしても必要なら考えるといったらしいのだ。

 

Hさんらしいわ。

 

で、どうなったと思う?

 

なんとご主人が50万全額払ってくれることになったらしい。

 

私は驚いた。こんな大事なことを一番頼るべき人に相談していなかったのだ。そもそもこの夫婦、家では家庭内別居状態で、口も利かない状態だったらしい。その口を利かなくなった理由が息子の素行の悪さにあったっもんだから(お前が甘やかすから、あんな出来損ないになるんだ!)みたいなこと。だから、なおさら息子の事故のことは言えなかったようだ。

 

なんだそりぁ!調子ぬけしたが、ふとおかしくなった。人ってなんで、助けてくれる人がいるのに、遠くの人に助けを求めるんだろうね。30年前、Kさんは私に借りる前に、親に頼むべきだったのだ。その後同居してるぐらいだから、できないはずはなかったはずだ。

 

人間はほんと、つまらない意地で困ったときに本当に助けてくれる人を見失うんだね。

 

何はともあれよかった、よかった。

 

昔、「家なき子」というドラマで安達祐実が演じた小学6年生の女の子が、貧しさゆえに「同情するなら、金をくれ」てセリフがあったけれど、やっぱり友人は、「同情だけして、金を貸すな!」だと思うわ。