つつのんの気まぐれ日記

アラカン女子の複雑怪奇な頭の中を書いていきます。

同一労働同一賃金で派遣の取り巻く環境は変わったのか?

所長の鶴の一声だよ。

 

彼女は仕事をやめた?クビになった?理由をそう言った。

 

鶴の一声で、仕事を奪われてしまうのだな。最初その話を聞いた時、同じ派遣の身として嫌な気分が渦巻いた。

 

彼女Aさんは私よりちょっと若い50代前半である。一年前まで私が今いる職場で働いていた。彼女は6カ月の更新とともに「こんな意地悪な人の多い会社見たこともない!」そう言って同職場を意気揚々と去っていった。そしてすぐに別の会社で派遣として働き始めた。そして1年、いや正確に言うと11カ月!つい先月彼女はこの新しい職場をも去った。そう、所長の鶴の一声とやらで。

 

意外にも久しぶりに会うAさんに暗い表情はない。コロナでこもり切っていた私とAさんは一緒に働いていた頃よく行っていたコーヒーショップまで繰り出したのだ。ここはパンケーキがおいしい。つい食べたくなったのだ。

 

「なんか、クビになった割には元気そうじゃない?カラ元気?」私はちょっと茶化してみた。

 

「まあね、ショック通り越して落ち込むのもアホらしいわ」と、パンケーキをつつきながら経緯を詳しく話し始めた。

 

内容をざっとまとめてみよう。

 

彼女の派遣先の会社は従業員200名程の営業所だった。昨年の秋ごろ所長が変わった。大手企業によくある営業所間の異動だ。4年から10年ごとにあるらしい。前の所長よりかなり若い新しい所長はやり手で厳しい人ではあったが、従業員の受けが良かった。なぜならその所長は新任早々から倉庫の方で働くパートのおばさん一人一人を名前で呼び、気軽に声をかける気配りのある人だったらしい。でも彼女はそう説明しながらポロリと言った。

 

「でも、私は同じ事務所内にいるのに一度も話しかけられたこともなかったけどね、私の名前も知らなかったんじゃないかな」

 

もちろん、話しかけられなかったのは同じ派遣の同僚もそうだった。事務所には派遣が4人いた。違和感をその頃から感じたそうだ。よそ者扱い?もともと、そういう雰囲気は会社にあったらしいが、新しい所長が来てから一層顕著になった気がしたらしい。

 

「まあね、ウチもそうだしね」私は、彼女の言う「よそ者と」いう言葉を素直に受け止めた。時折、私の職場でも感じることだ。

 

そして今年の4月初めごろ、倉庫の方から「派遣は切られるらしいよ」そんな噂が流れてきたらしい。その頃はまだAさんはのん気に構えていた。切られるにしても、倉庫の方に派遣されている人達だけだろうと思っていたのだ。だって、事務所はコロナの影響にも負けず忙しかったからだ。よく働く派遣がいなかったら会社は回らないはずだ!そう思っていた。そこで到来したのが、同一労働同一賃金だ。同一とは程遠いが、Aさんは少しではあるが4月に時給が上がり、今まで出なかった交通費まで出るようになった。必要とされているんだ!そう思っていたと言う。

 

同一労働同一賃金とは仕事内容が同じなら、正規、非正規にかかわらず同等の賃金を支払い格差をなくそうという制度であるが、2020年4月から施行された。但し、中小企業は来年の4月からである。もちろん非正規雇用とは、私たち派遣労働者だけではなくパート労働者も含まれる。

 

「とんだ、勘違いよね、バカみたい」とAさんは自嘲気味に言った。

 

Aさんがその派遣切りの噂がわが身に降りかかることだと悟ったのは、その噂を耳にした翌月である。新しいパートさんが入ってきたのだ。しかも4名。1人か2人ならまだその時点で気づかなかっただろうけど、事務所勤務の派遣の人数と同じ。いやな予感がしたと言う。

 

予感は的中。

 

派遣切りの準備は着々と進められていたのだ。

 

ハタと、思ったという。世の中はコロナの影響で職を求める人が多い。派遣の代わりなどすぐに見つかる!

 

そして、その後派遣元から電話があり、派遣先から契約解除があったことをを告げられた。理由は派遣先の方針が変わり、派遣を一切雇わないことになったそうだ。

 

とは言われたが、その方針は所長の一声で決まったと誰からともなくAさんの耳に入ってきた。もともと、所長以下はイエスマンの集まりだとAさんは揶揄した。

 

 同一労働同一賃金は非正規で働く労働者の悲願ではなかったか・・・・・

 

でも、現実はどうよ。私の派遣先では何も変わっていない。派遣もそうだが、パートさんは相変わらず同じ仕事内容なのに派遣よりさらに時給200円近い安い賃金だ。それでも福利厚生は社員と同等だ。同僚のパートさんは賃金安くてもクビになることは ないだろうから、派遣よりいいと私の方がかわいそうに思われている。どっちにしろ、パートも派遣も正社員からは程遠い賃金であることに変わりはない。

 

大企業にはこういった制度を率先して行う社会的義務があるが、それに伴う経費の上限は避けられない。忌々しく思っているのが本音だろう。この制度が浸透する前に、会社側は様々な策を講じるんだろうな。もちろん、その一方で非正規の労働力をちゃんと評価し活躍してもらいたいと思っている会社もあるだろう。あるかな?あってほしいな。

 

6月より水曜ドラマ「ハケンの品格2」が始まった。シーズン1の時あれほど夢中になって見たはずなのに、今回不覚にも1,2話を見逃した。3話からはちゃんと見てるけどね。このドラマでは正社員と派遣の格差を露骨に描いているが、これほどの格差を身に受けた遣社員はむしろ少ないと思う。そこはやはりドラマだからね。極端な方が面白い。スーパー派遣大前春子というキャラクターもまず現実にはいそうにない。そもそもここまで優秀だったら、いくら会社に縛られたくないと言っても派遣などしない。私などは、派遣の方がむしろいろんな制約があるような気がしている。

 

若い方たちは、派遣でいることをむしろ気に入っている方もいるかと思う。派遣の方が自由度が高いイメージがあるようだ。実際、同僚の20代の派遣社員Bちゃんがいつか言っていた。

 

「派遣の方が気楽でいいですよ、忘年会も出なくていいし、研修も出なくていいし、私生活が優先できるじゃないですか、嫌になったら別のところ紹介してもらうし」

 

そりゃ、アータが親と一緒に住んで、若くていくらでも次の仕事があるから言えんだよ!

 

と思ってはみたが、半分他人ごとのように聞いていた。あと数年で還暦を迎えようとしている私とは、明らかに寄り添えない感覚である。

 

Bちゃんは10年後もそう思っていられるだろうか?

 

以前私は服飾メーカーで5年ほど働いたことがある。私はその頃派遣ではなかったがその会社は派遣社員を5人ほど雇っていた。ちょうどその会社でデザインしたブランドが大当たりし、会社は急激に伸びていた。だが2年ほどたって、雲行きが怪しくなってきた。売り上げが急激に落ち込んだ。下り坂を転げるのは早い。当然、人が余ってくる。景気がいいときは、正規労働者と派遣のあいだに差はなかった。会社の行事にも普通に参加し、意識の上でも会社は派遣社員さんたちを差別することはなかった。いい会社だった。

 

でもね、会社の景気が悪くなってきたときに、真っ先に会社が手を付けたのが、派遣との契約解除だ。たぶん、今でもそうだろうね。

 

派遣労働者は正社員と比べると、雇用状態が不安定だ。その不安定さを解消しようと、派遣労働法は何度も改正されてきた。

 

今回のAさんの契約解除が、会社の業績が下がったせいだとは聞いていない。同一労働同一賃金がネックになったのではないか?そう思えて仕方がない。

 

同一労働同一賃金の制度はまだ始まったばかりだ。

 

もちろん会社というところは、景気に左右され業績が上がったり下がったりする。その時に増やしたり減らしたりできる手軽な労働力として派遣を利用したいと思う経営者は当然いる。

 

いくら法整備をしても、経営側の意識が変わらない限り本当の意味での同一労働同一賃金の実現はずっと先だろうな。そう思うのは私だけだろうか。

  

「パンケーキもう一つ頼まない?」

 

パソコンのデーター打ち込みなら、若い人にも引けを取らないスピードの持ち主のAさんが言った。

 

何で優秀な人が契約解除になったりするんだろう。

 

理由は派遣だからだ。

 

正社員だとか、パートだとか、派遣だとか、そんな呼び名に関係なく同じ土俵でちゃんと評価される世の中が来るといいな。その時私は年金生活者かもしれないが、そう願ってやまない。

 

私は、カラになっている彼女のコーヒーカップを見ながら言った。

 

「ついでに、コーヒーもおかわりしない?」 

 

  

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